坂木司「先生と僕」

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都会の猫は推理好き。田舎のネズミは…?―ひょんなことから大学の推理小説研究会に入ったこわがりな僕は、これまたひょんなことからミステリ大好きの先生と知り合う。そんな2人が、身のまわりにあるいろいろな「?」を解決すると同時に、古今東西のミステリ作品を紹介していく連作短編集。事件の真相に迫る名探偵は、あなたをミステリの世界に導く名案内人。
(「BOOK」データベースより)

小説好きは、小説の出てくるお話が好き。
中でも特にミステリ好きは、ミステリの出てくるお話が好き。

「先生と僕」は、ミステリの中で、ミステリの話をして、ミステリ好きが喜ぶ、お話です。
人民の人民による人民のための政治。

うつむいた僕の目に入るのは、赤黒く染まった公園の石畳。するとその視界に、長く伸びた影がするりと入りこんだ。
「こんばんは」
それが僕と先生との、運命の出会いだった。

「先生と僕」の「先生」は、このミステリの主人公である大学一年生の伊藤二葉さん(男性)
私立中学一年生男子の家庭教師の先生です。

いや、でも「先生」は、もしかしたら中学一年生の瀬川隼人くんのほうなのかもしれない。
二葉さんに“怖くないミステリ”を教えてあげる、先生。

あっちも先生、こっちも生徒、一体「先生と僕」の先生はどっちで生徒はどっちなんだか。

教えたり教えられたり、僕らの会話はいつも先生と生徒を行ったり来たり。最初は頭のいい隼人くんに引け目を感じたりもしたけれど、でも、それでもいいと今は思う。
(だって、楽しいからね)
楽しさが全てを容認する切り札になるのは、やはり隼人くんの影響だろうか。僕一人では到底行かなかったであろう場所に、会わなかったであろう人々。新しい世界を切り開いてくれる彼は、まるで僕の水先案内人だ。

そうね。読んで楽しければ良いのね。隼人先生の言うとおり。

まずは二葉さん。
極度の怖がりでビビリ症、かつ押しにはとことん弱い、受身の十八歳(本人談)
目の前を黒猫が横切っただけで一日ブルー。ビルに入れば非常口のピクトさんを真っ先に探し、血が吹き出るスプラッタや殺人事件が起こるミステリなんて、到底受け入れられません。
そんな二葉さんが、友人の誘いを断りきれず入ったサークルが『推理小説研究会』
死体の出てくるシャーロック・ホームズを読んだだけで夜中にうなされてしまう(相当だね!)というのに、一体どうしましょう。

次に隼人くん。
通っている進学校の中でも成績上位の、我が娘に爪の垢を飲ませたいTHE・優等生。
しかしどんな優秀な子供でも、母の心配と干渉は尽きないようで。学校の勉強以外にも学習環境を用意したいと、塾に通うか家庭教師をつけるかの選択を迫られました。

「そこでぼくは考えた。どちらかを選ばなくちゃいけないのなら、家庭教師にしよう。そしてぼくはその人と、秘密の契約を交わせばいい」
「秘密の契約?」
「うん。つまり、家庭教師のふりをしてもらうってこと」

隼人くんにしてみれば、塾に行かなくても成績はキープできるし(すげーな)空いた時間は好きなミステリを読んで過ごしたい。勉強は自分のペースで自学自習(本当にすげーな!)
母親に向けた『家庭教師のセンセーに教えてもらって勉強してるよボク』ポーズを作るために、公園で本を読んでいた、気弱そうで、お人よしそうで、こすっからくなさそうな大学生を見つけて家庭教師を自らスカウト。

しかしですね二葉さん。さすが隼人くんが目をつけるだけあって(いやただの偶然だけど)常人にはない結構スゴい特技を持ってます。
それは、目に入ったものを瞬時に記憶してくれる脳内カメラを持っていること。ズームアップも俯瞰も自由自在。
おかげで暗記物は大の得意で、教科書のページ開けば「1、2、3」で暗記できてしまう。受験には大層有利に働き、難関S大にも合格したというわけです。
のび太もなぁ、暗記パンで腹さえ下さなければ、今頃は東大一直線だっただろうにのう…。

二葉さんは隼人くんの先生になって、勉強を教える(ふりをする)
隼人くんは二葉さんの先生になって、死体の出てこない「怖くないミステリ」を教えてあげる。
相互先生のWin-Winな秘密の関係、で、ございます。

「先生と僕」はミステリではありますが、死体の出てくるような血なまぐさい事件は起こりません。ほら、二葉さん卒倒しちゃうからね。
いずれの短編も、北村薫的な“日常の謎”がメインで、二人の会話ものんびり、ほのぼのと綴られていきます。
でも“謎”の題材は、よく考えてみるとあんまり“日常”じゃない。全然のんびりほのぼのしてりない。暴力沙汰は無いにしても、万引きとか、窃盗とか、宗教詐欺とかが頻発しています。
彼等の住まう地域は、実は非常に治安が悪い犯罪多発地帯なのではないだろうか。

そこで思い出すのが、普通の街を装いながらその実は治安の悪さNo.1の犯罪多発地帯の、そう『米花町』

「ま、でもこれもちょっとだけ憧れてたからいっか」
「はあ?」
「一度さ、警察官に『探偵ごっこはやめろ』とか言われてみたかったんだよね。こればっかりは自分で望んでも経験できるものじゃないし」
若き探偵にはお約束の台詞だからさ。そう言ってくるりとターンした。
「もう、超満足!」
あり得ない。てか僕は超ブルー。

……コ…ナ…ン…!!

二葉さんと隼人くんが一緒に街へ出かけると、いつかは二葉さんが超苦手な殺人事件にも出くわしかねません。
死神とも真の黒幕ともウワサされるコナン君をトレースしていくような隼人くんの賢しさと、子供イメージを存分に活用する演技力。
シリーズ二冊目「僕と先生」(わかりづらい題名だなあ)を読むのが楽しみなような怖いような。二葉さんのみならず、読者をもビビりにさせる罪な人だわ、坂木さん。

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レビュアー: さくら
さくら
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