北村薫「リセット」

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遠く、近く、求めあう二つの魂。想いはきっと、時を超える。『スキップ』『ターン』に続く《時と人》シリーズ第三弾。
「——また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の苛酷な運命の始まりの日だった→←流れる二つの《時》は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。
(Amazon内容紹介より)

“時と人”シリーズ三部作の、これがみっつめ。順不同。
あとのふたつはこちらにて→「ターン」「スキップ」

ファイトー、いっぱーつ!

「リセット」で登場してくる二人…便宜上、とりあえず二人と言いましょう。
このふたりの粘り強さは相当なものです。何度邪魔されても、何度阻まれてもくじけない。
二人の心はひとつ。
『なんとしてでもこの恋を、成就させてみせる!』

まあちゃんは、事故の翌年には、もう生まれていたことになる。お父さんに比べて、ぐずぐずしていない。
「それだけ早く、あなたに会いたかったのよ」
という。

カップル成立に向けて粉骨砕身の努力を行う、やる気に満ち満ちた二人の出逢いは第二次世界大戦頃から。

最初の二人は、戦時下の女学生の真澄さんと、男子学生の修一さん。
互いに手も繋ぐことなく、淡い思いを抱いたままで、修一さんは空襲の被害に…。

それでも修一はくじけなかった!
リセーーーーーット!

年齢を重ねた真澄さん。中年にさしかかった彼女の前に現れた小学生の和彦くん。
とあるアイテムがきっかけで、二人は過去(若き日の過去、もしくは前世)の恋情を思い出しながらも、多大な年齢差に動揺している間に真澄さんは列車事故に巻き込まれ…。

それでも真澄はくじけなかった!
リセーーーーーット!

大人になった和彦さん。仕事の都合で郊外に出向いたところ。
麦畑の向こうから走ってきたセーラー服姿のお嬢さん。

はい、もうこれが誰だかわかるよね?
ここまで順番にリセットしてきて、目出度く和彦さんとまあちゃん(真知子さん)は結婚して子供も成します。
あー良かった。もしここで和彦さんが死んだら、もう一回リセットしなきゃならないところだったよ。

小説の本題となる二人の愛の成就に関しては、あー良かったねはいはい、末永くお幸せに、という位で置いといて。
「リセット」を読んで気持ち良いのは、戦前~戦中の女学生さん達の日常生活にございます。
ヒロインの真澄さんはそこそこの企業の重役令嬢で、すっごいお嬢様ではないにしても、そこそこお嬢様。ご学友のお宅で、お紅茶とフルーツ・コンポートを頂くようなハイカラさん。
北村薫は“ベッキーさんシリーズ”という、やはり昭和初期のお嬢様を主人公に据えたシリーズ物がありまして、そっちも良いですよ。北村薫の書く昔のお嬢さん方は、上品でおきゃんでとても好き。

で、ですね。主題とは直接の関わりはなくても「リセット」の中で一番好きなシーンがありまして。
真澄さんが同級生のお友達と、江戸川乱歩の『蜘蛛男』を回し読みしていて、アダ名が『防毒マスク』の先生に取り上げられる場面があるのですよ。
昔は江戸川乱歩はいかがわしい本で、婦女子が読むに相応しくないとされておりましたから。

先生の追及に、お友達の優子さん曰く。

優子さんは、あどけなく続けました。
「お釈迦様が蜘蛛の糸で、地獄にいる人を助けるような童話があったかと思います。そういった話ではないんですか」
先生は、眉をひそめていいました。
「江戸川乱歩だぞ。——エログロだっ」
優子さんの顔は、途端にぱっと真っ赤になりました。横にいた私が、思わず見入ったほどの変わりようです。先生は身を引き、横に立っていた女の先生に、視線を投げました。—(中略)—怒りの矛先は、そこで折られてしまいました。

場面変わって、職員室から解放されたふたり。

「——ねえ、本当に童話だと思っていたの」
優子さんは、一層高く、青空のような声で笑います。
「そんなわけないでしょ。全部、読んだわよ。ああでもいわないと、まだまだ怒るもの。男のおヒスって、嫌やわね」
わたしは、驚くというより、あきれてしまいました。
「それでよく、あんなに赤くなれるねえ」
優子さんは、いいました。
「だって、心の底から恥ずかしかったんだもの。エログロっていった時の、防毒マスクの頭の中が見えるようでさ。——何て恥ずかしい人なんやろうって思たら、その照り返しで、こっちまで赤くなてしもたの」

昔の女学生さん達のおきゃんな様子が垣間見えるようで、読んでいてとっても楽しい。

恋は恋で、そりゃあ悪くはないですが。
「リセット」の恋は、恋というより、粘り腰。
だからあの二人は、放っておいても大丈夫よ。この先、和彦さんかまあちゃんのどちらかが死んでも、きっと即座にリセットボタンを押すに違いない。いつでも何度でも。
ファイト、いっぱーーーーつ!

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レビュアー: さくら
さくら
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