中山七里「静おばあちゃんにおまかせ」

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一見頼りなげながら、つぎつぎと難事件を解決する捜査一課の若手刑事、葛城公彦。でも、彼のお手柄の裏にはある秘密の存在が…。
(「BOOK」データベースより)

老婦人が過去の経験に基づいた鋭い視点で、自宅で事件の概要を聞くだけで推理してしまう。

そう聞いたら、いくつかの女性安楽椅子探偵ミステリが思い浮かびます。
「火曜クラブ」のミス・マープルとか「ママは何でも知っている」のブロンクスのママとか。

「静おばあちゃんにおまかせ」も、正直その類の焼き直しかなーと思って手を出しておりませんでしたが、いやいやどうして。ごめんよ中山七里さん。
そうくるとは、思ってなかったよ。

「みんなねえ、自分のしていることが悪事だなんて夢にも思わないのよ。中には悪いことだと自覚している故意犯もいるけど、自覚している分だけ話は単純よね。難儀なのは世の中で起きている紛争や犯罪が正義と正義の衝突ということなの。おカネを盗んだり騙し取る行為だって、今日一日の日銭を稼がないと生活していけないからという正義。人を殺めるのも、この人間を生かしておいたら自分や誰かの不利益になるからという正義。古い因習の残る場所では法律としきたりが相反する場合だってある。この検事にしても、何とか立件して容疑者に罪を償わせようとする正義があったのじゃないかしらね」

成城で孫娘と二人暮らしの静おばあちゃん。このお方の経歴自体が、他の女性安楽椅子探偵とはちと違う。
日本で20番目の女性裁判官で、退任前には高等裁判所の裁判長も勤めています。女性が社会で活躍するのが難しかった時代にしては、すごいキャリアだと思いませんか?
そんなゴッドばあちゃんの静さんですので、いや厳しい厳しい。世に対しても、孫娘に対しても常に厳格で峻厳です。
両親が交通事故で他界して、おばあちゃんの家で育てられるようになった円ちゃんも花の女子大生。あまりにも厳格な祖母との生活では、息が詰まるところも多々あるんじゃないでしょうかねえ。
窓の桟を指でツツーッとして「ほらホコリがこんなに」どんな姑小姑よりも、同居するに耐え難~い。

で、元司法の人とはいえ今では家に閉じこもりっきりの老婦人。
そして孫娘は女子大生。
では、どこから事件のネタが転がってくるのか?というのは、警視庁の刑事、葛城クンが元ネタとなります。

刺繍の入ったコットン地のワンピースにウエストマークのベルト。流行のキレイめお嬢様とかいうファッションだろうか。その方面の知識には疎い葛城には清楚という形容詞しか思い浮かばない。
「お待たせ」と声を掛けると、あの澄んだ瞳がこちらを向いた。普段、犯罪者の濁った目ばかり見ている身には、それだけでここまで来た甲斐がある。

元々はちょっとした強盗事件の捜査の際に、被害者の友人として出会った円ちゃん。
事件が解決すれば縁もなくなる筈の一関係者を、わざわざ呼び出して別の事件の話をしようとする葛城クンの狙いは、事件を解決に導こうという刑事魂の成せる所業か、もしくは女子大生狙いの下心か。

階段の踊り場で携帯電話を開く。あの声をまた聞きたいという気持ちが半分、もう二度と血なまぐさい現場に連れていきたくない気持ちが半分。六つも年下の子供に特別な気持ちなどある訳がないと否定する一方で、ではお前の守備範囲はいったい何歳からなのだとからかう自分がいる。
中学校の頃、好きだった女の子の家に行き、その周辺を何度もうろついた挙句にすごすごと帰ってきたことを思い出した。

男の下心が、ご隠居おばあちゃんと、孫娘を巻き込んで。
やっぱりエロは、全ての行動の原動力だよねえ。

「静おばあちゃんにおまかせ」では、それぞれの短編で事件が起こり、その推理をしつつ円と葛城の恋模様が展開されていく次第ではありますが。
主題の事件とは別に、円の両親が亡くなった交通事故についても推理がなされていきます。
もう6年も前の事故で、しかも運転手は出頭して非検挙になっているというのに?

「あのことだけど…あたし、分かった。あの日、誰がお父さんとお母さんを轢いたのか」
「……そう」
「誰がって聞かないの」
「必要ないわ」
「どうして?」
「ずっと前から知っていたんですもの」

本書のラストで明かされる衝撃の事実とは!
事故の真相かって?いやいや、そんなもんじゃありませんぜ。
葛城と円の恋の行方かって?そんなもん馬に食わせとけや。
それよりも何よりも、ラスト大ドンデンには読者びっくりですよ。

そして読者は衝撃と同時に、ある事実を知ることとなります。
「このシリーズの二冊目が決して出ることはない」という事実。
何でそう思うかは、おったのーしみー。

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レビュアー: さくら
さくら
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