ドロシー・ギルマン「おばちゃまは飛び入りスパイ」

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ミセス・ポリファックスは、自分の住む市のガーデン・クラブの役員で、病院でボランティアをする、要するにどこにでもいるアメリカのおばちゃまだ。それがある日、突然思いたってアメリカ情報組織の本拠、CIAに乗り入んで「わたしをスパイにしてください」「そんなばかな、ご冗談を」ところが、どういうわけか彼女の夢はほんものになってしまったのだ。元気印のポリファックスがさっ爽世界に登場。
(「BOOK」データベースより)

160812

“おばちゃまはCIA”シリーズの最新作がずっと発刊されないなあ、と寂しく思っていましたら、2012年に著者のドロシー・ギルマンさんがアルツハイマー合併症により死去されていたことがたった今判明。
うっうっう。好きだったのにおばちゃま。いや、“おばちゃま”という単語でイメージされる老婦人ではなく、お茶目で、キュートで、活発で、勇猛果敢なミセス・ポリファックスが。

「用件といいますのは、こちらのスパイのことですの」
若い男の口が、あんぐり開いた。
「し、しつれい、いま何と…」
ミセス・ポリファックスは、お聞きのとおり、という顔で、
「ご入り用かどうか知りたかったものですから」
と、続けた。

60歳を過ぎて未亡人となり、子供たちが独立してからは只一人きりの生活。ボランティア活動とガーデンクラブと近所の友人とのおしゃべり。
変わり映えのない毎日。何の心に張りもない毎日。

そこでミセス・ポリファックスは考えた。

そうだ CIA、行こう。
チャラララララララララ~♪JR東海。

「スパイのボランティアにきましたのよ。わたしはまったく身寄りがありませんの。借金もありませんし、何の責任もない身分です。
わたしのメリットといったら、人柄ですわね。でも、人柄っていうものはばかになりませんのよ。わたしぐらいの年齢になりますと、もう、人柄がすべてといってもいいくらい。
あとは、そうですわね。子供を二人育て上げ、家庭を営んできました。車の運転もできますし、応急手当ても知ってます。血を見ても気絶したりしませんし、いざというときに落ち着いて行動できますわ」
—(中略)—
「いやあ、なんと言ったらいいものか、ミセス・ポリティック。これはそのう…」
ここで、意を決したように、彼は頭をひと振りした。
「要するに、こんなふうにスパイを雇うなんてことはありえないのです、絶対に。お気持ちはありがたいのですが…」
「では、どこに行ったらよろしいの?」
ミセス・ポリファックスは冷静である。
「どこに行けばいい、ということではなくて、いわば、国があなたを見つけるのです」
「なるほどね」
ミセス・ポリファックスの目つきが、やさしく咎めるものになった。
「でも、わが国はいったいどんな方法で、ニュージャージー州のニューブラウンズウィックに住んでいるわたしを見つけるのでしょうね。第一、いままで、わたしのこと、お探しになりまして?」

ミセス・ポリファックスがやろうとしていることは、スパイ活動のボランティア。孤児院や病院でのボランティア活動をするよりも、何だか楽しそうでしょ?
しかし素敵。そうか、スパイになるにはおばちゃまパワーの押しの強さが必要なのね。
日本の公安委員会にもこういうスパイ志願者がいるかしら?イギリスでは2000年くらいにスパイ募集の新聞広告を出したこともあったらしいですが、日本ではマイナビでもリクナビでも求人してないだろうなあ。

門前払いが当然の筈だったスパイ志願でしたが、ちょっとした行き違いから、彼女に対してスパイ活動のオファーが来ることになります。
とはいえ、スパイ初心者のミセス・ポリファックス。その任務は安全かつ単純な“運び屋”の仕事でした。

メキシコへ観光旅行に行き、楽しく旅行をする中でたった一回、メキシコシティの書店に立ち寄って本を購入するだけ。
あとの日程は楽しくメキシコ観光をすれば良し。買い物しようと食事をしようとご随意に。
安全かつ単純な、無邪気な年配女性の任務。

の、筈だった。

「ここ、キューバじゃありませんわね。わたしたちがどこにいるか、すこしは見当がつきます?」
彼は眉をひそめ、にがにがしく吐き出すように言った。
「おばちゃま、おれの推測が正しければ、まちがっているようにと神に祈りたいが、おそらく『アルバニアにようこそ!』というところだな」
「アルバニアですって?」
ミセス・ポリファックスは息をのみ、それから信じられないように彼の顔をのぞきこんで呆然とした。

ちょっとここでご説明。
この本の原書の出版は1966年。米ソ冷戦花盛りの時代です。
キューバ危機の起こった1962年からそう年月がたっていない時に執筆されています。
CIAのスパイ活動というのも、今よりもっとシビアな印象があったものだろうと思います。今はシビアじゃないのかしら?それは知りませんねえ。

そしてアルバニア。
当時のアルバニアは外国との交流を断絶した鎖国状態にありました。すごいね1992年まで鎖国してたんだよ。ゴリッゴリの共産国家でした。
外交が全くないため、ずっと謎の国とされていたアルバニア。

ミセス・ポリファックスは無邪気な観光客としてメキシコシティの書店に行った筈が、ふとした合間に眠らされてさらわれて、飛行機に乗ってメキシコを遠く離れ。
同じスパイ仲間のファレルと共に次なる旅行先の『アルバニアにようこそ!』
安全かつ単純な、無邪気な年配女性の任務の筈だったのにね?

「彼女の息子や娘が葬式を出して、墓石に彼女の名前をきざむ。まったく、かあさんはなんていう死に方をしたのでしょう、などと言う。でも、実際にどういう死に方をしたのか、なんのために死んだのかは、彼らにはわからずじまいだ。もちろん、ワシントンの人間や、メキシコシティの警察が、彼らに見せられるような形に母親の死をセットしたということも」

CIA本部ではミセス・ポリファックスの失踪を知り、素人の年配女性をスパイに仕立ててしまったことを深く悔やみます。
まさかアルバニアに連れ去られたことまでは知らずとも、スパイが任務に失敗するイコール、死、ですから。
ミセス・ポリファックスはメキシコ旅行先で、事故にあって死亡したことにする。ボートが転覆して、海中を捜索しても発見できなかったことに。

ひとりの女性スパイの、真実を明かされない死。

ところがどっこい。
ミセス・ポリファックス、ここから彼女の本領が発揮されます。
なんの本領だって?そりゃあ、人柄よ、人柄。スパイに応募する時に彼女も言っていたじゃない。

人柄っていうものはばかになりませんのよ。

彼女は捕らえられている合間の暇な時間にはトランプ遊びのソリテアを楽しみ、牢屋の見張り役にマッサージを施し、民主主義裁判の陪審員制度のレクチャーを行い、夜には兵士とパーティをし、そのついでにファレルの腕から銃弾を切開して取り出し(麻酔はないよ♪)お散歩中に森の中で中国製のミサイルを発見したりします。
これ全て、彼女の人柄の故なり。人柄ってーのはホント、ばかになりませんわねえ。

「おばちゃまよ。おれは若くてきれいな女なら数えきれないほど知ってる。だが、あんたはおれにとって『アルバニアで捕まったときいっしょにいたい女ナンバーワン』さ。こんな年になってから、あんたみたいな素晴しい女性に会えるとは思わなかった。いや、ほんとう。ここにいるとすごい勢いで年とってくるって気がするよ」

上記はスパイ仲間のファレルの弁。
彼は素人スパイのミセス・ポリファックスに比べて、玄人スパイ。マジスパイです。
でもね、幾度となく修羅場をくぐり抜けたファレルでも、この素人スパイには叶わない。

さてさて絶体絶命大ピンチを、素人スパイの“おばちゃま”がどう乗り越えるか。
ミセス・ポリファックスとファレルは、生き残れるか。
謎の国アルバニアから脱出することはできるのか。

ま、シリーズ1冊目ということで、当然結末は予測つきますけどね。

生きて帰るだけだったら、誰でもできる(かも)
でも“おばちゃまはCIA”シリーズが14冊もある理由は、なんだと思う?
役に立たないスパイなんざ国の税金使うゴク潰しだっていうのに、素人スパイのシリーズがこれだけ長く続いた理由。キュートで無邪気なだけじゃない“おばちゃま”の真髄は、ラストのサプライズに有。
もし「おばちゃまは飛び入りスパイ」が入手できるようだったら、読んでみてくださいな。絶版だけど。もう新作でないけど。ドロシー・ギルマンに合掌。

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レビュアー: さくら
さくら
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