スティーヴン・キング「痩せゆく男」

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痩せてゆく。食べても食べても痩せてゆく。老婆を轢き殺した男とその裁判の担当判事と警察署長の3人に、ジプシーの呪いがつきまとう。痩せるばかりではない、鱗、吹出物、膿…じわじわと人体を襲い蝕む想像を絶した恐怖を、モダン・ホラーの第一人者スティーヴン・キングが別名義のもとに、驚嘆すべき筆力で描きつくした傑作。
(「BOOK」データベースより)

文春文庫「痩せゆく男」では著者名がリチャード・バックマンとなっていますが、バックマン=キングであります。
どうしてバックマン名で出版したのかというのは、オトナの事情~。

痩せてゆく。

ダイエットサプリの広告だとしたら、世の奥様方には夢のようなお話。
但しこのダイエット、丁度良いところで止まってくれないのが困りもの。

運転中に誤ってジプシーの老婆を轢き殺してしまったビリー・ハリックさん。というか、今ではジプシーという呼称は差別用語だとして「ロマ」に言い換えられておりますね。
呼称はどうあれ、少数民族への差別というのは今も昔も厳然として存在するものです。
だから、アメリカ白人がジプシーを轢き殺しても、アメリカ白人は裁判で無罪になった。仲間のアメリカ白人が、幾重もの嘘で罪を覆い隠した。

じゃあ、裁きは自分たちで行おうじゃないか。
そう考えたジプシーの長老が、彼等に与えた呪いとは。

さて、当のハリックさん。最近嬉しいことばかり。
交通事故は起こしたけど無罪にはなったし、大口の仕事はゲットしたし、それに最近、ちょっとお痩せになったんですよ。
ちょっと前の体重は251ポンド。キロ換算すれば113キロ位。身長は6フィート2インチなので、BMIの計算をするならば(体重÷身長の二乗)で33.02.
アメリカーン!な肥満体型ですね。

それがこの間体重計に乗ってみたら、246ポンド(111キロ)BMI32.43まで減っているではありませんか。ラッキーって感じで鼻歌フフンですよ。
さらに、奥様とバカンスに出かけた旅行先で体重を量ってみたら、さらに痩せて232ポンド(105キロ)BMIは30.68.

体重計に表示されたメッセージは、只の一文。

『痩せてゆく』

最初は気を良くしていたハリックさんも、夫のシェイプアップ成功を喜んでいた奥様も、彼が227ポンド(102キロ)BMI29.8あたりになる頃には、ちょっと不安になってきます。
急激な体重の減少というのは、普通ならば何らかの病気を疑うでしょう?
病院で検査をしてもらった時には、さらに痩せて217ポンド(98キロ)BMI28.63まで落ちていますが、お医者さん曰く『いやキミ、いま現在でも適正体重より30キロ以上肥ってるから』と鼻で笑われてしまいます。

しかしながら。ハリック式ダイエット、なおも止まらず。
体重が181ポンド(82キロ)BMI23.96になったあたりで、身体に異常が起きているのはハリックさんだけでない事実を知ります。
ハリックのお友達の判事。交通事故の裁判の際にちょいと手心を加えて、無罪の判決をしたお方。
もうひとりは、事件の捜査でハリックに不利な証拠を隠蔽した警察署長。

判事の身体は、鱗が生えて鰐のように。
警察署長の身体は、膿と吹き出物で全身が腐ったように。

3人の身に起きている出来事が、ジプシーの呪いである事実を、彼等は否応なしに受け入れざるを得ない。

「なぜなの、ビリー?なぜあなたはあの年寄りをはねなきゃならなかったの?なぜケアリとわたしをこんな目にあわせなきゃならなかったの?なぜ?」
「リーダ——」
「二週間ほどしたらまたきてみて」と言いながら、リーダはなおも前進し、一方ハリックは大変な意志の力で愛想笑いしながら、背後の玄関ドアのノブを死にもの狂いで手探りした。
「あなたがもう四、五十ポンド痩せた頃またきて、わたしにその姿を見せて。笑って……笑って……笑いまくってやるわ」

今や体重が156ポンド(70キロ)BMI20.45まで落ちたハリックさんとしては、自分の奥さんが腹立たしくてなりません。だって交通事故の原因って、元々は奥様のイタズラのせいなんですよ。
なのに自分だけはジプシーの呪いからまぬがれて、なおかつハリックの言う『これはジプシーの呪いだ!』を信じようとはしない。

冗談じゃない、お前だけ何故ひとごとみたいな顔していられるんだ。
呪いが妄想だって?だったら、自分も同じ目にあってみたら良いじゃないか。
——そんなハリックの怒りが、ラストへの展開につながるのですが、それはまた先のお楽しみとして。

このままじゃ精神病院に放り込まれて、閉鎖病棟でホネホネロックを歌う羽目になるのは必至!
さてここからハリックさんアクティブな活動開始。100ポンドも減ったからフットワーク軽いしね。旅路のジプシーを探し出して、自分にかけた呪いをといてもらおうと一行の後を追います。
ちなみにこの探索に協力してくれるのが、イタリア移民のジネリさん。この人チョー良いよ。チョー有能。チョー友達思い。チョー働き者。チョー死んで悲しい。しくしく。

…..で、「痩せゆく男」はこのあたりから、日本の読者としてはちょっとずつ違和感を感じ始めてくるのですよ。

ジプシーご一行の追跡を続けるハリックさん。推定体重130ポンド(58キロ)。
ここらへんから、街行く人の目が段々変わって参ります。

とそのとき、ウェイターの目が恐怖に近い驚きの色を見せて大きく開かれた。それはほんの一瞬のことだった。やがてまた無関心な目つきにもどった。だがハリックは見てしまっていた。
恐怖だ。ほとんど恐怖の色だった。

「アイスクリームをもう一つどうかね?」
「いや、けっこう」不安は今や一層強まった——だが怒りもあった。ほかのあらゆるものの下でブンブンうなり、脈動する音が。
「だったらさっさといってくんないかね、旦那?あんたはあまり商売に都合がよくないんでね」

「もうここから出ていってくれないか、ビル?正直いって、あんたはビアフラへの休暇旅行の宣伝ポスターって感じなんだ。あんたを見てるとなんだかぞっとしてくるぜ」

一画の途中で、小さな男の子が急に歩道からそれて、カウアンという家の塀によじ登り、そこの裏庭をまっしぐらに駆け抜けたのに、ハリックはほとんど気づかなかった。この少年はその夜、よたよた歩きのかかしがしゃれこうべに生えた生気のない髪を風になびかせて自分に迫ってくる悪夢から、悲鳴とともに目をさますことになるのだった。—(中略)—「あれはぼくに死ぬまでネーブルを食べさせたがってるんだ!死ぬまでネーブルを食べろって!死ぬまで食べろって!」

そーこーまーでーーーー?!

最終的にハリックの体重は118ポンド(53キロ)BMI指数は15で一旦停止します。BMI指数の理想は22なので、明らかに痩せすぎの部類には入るでしょう。
でもね、BMI15程度の痩せ体型の人は、そこらへんにでも居ませんかねえ?!いや確かにすっごい痩せてるし、細くてびっくりかもしれないけど、子供が悪夢にうなされるほどってのは、ちょいと盛りすぎじゃあありませんかねキングさん。

とはいえ、具体的な体重数値さえ見なければ、怖え~ホラーとして充分に楽しめる「痩せゆく男」
日本人にはなじみが薄いポンド単位のままで読んだ方が、数値がぼやかされてよりお楽しみ頂けるかと存じます。

私のように、ついついポンド⇒キロ換算をして、ついでにBMI計算をしてしまう粘着質なタイプの貴方は、私のようにブログでわざわざ数字を列挙して、未読の人へのイヤガラセをして鬱憤を晴らしてください。

小説を読む前に当ブログを読んで、楽しみが半減されたとお怒りの貴方には。
ジプシーの呪いたっぷりの苺パイを差し上げましょう。
さくらの家の冷蔵庫に、そっとしのばせておいたなら、さくらが痩せてゆくかもしれないよ。

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レビュアー: さくら
さくら
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